がん治療の臨床分野では世界最大規模の第43回米国臨床腫瘍学会(ASCO)が6月1日から5日間、米国シカゴで開かれた。世界各国から第一線のがん臨床医約2万5千人が参加し、最新の抗がん剤を使った臨床研究の成果を競った。
乳がん
日本でも患者数が増え続けている乳がん。標準治療薬の一つとされるタモキシフェンやパクリタキセルとの臨床比較試験のデータを使い、欧米の製薬会社が開発した最新の自社製品の優位性や安全性などを強調したリリースが相次ぎ発表された。
スイス・ノバルティスファーマは、国際乳がん研究グループが実施したBIGI−98試験のデータを基に、最新のアロマターゼ阻害薬「フェマーラ」(一般名レトロゾール)がプロゲステロン受容体(PgR)やHER2の状態に関係なく、乳がんの再発リスクをタモキシフェンより大幅に減少させたと指摘。
エストロゲン受容体(ER)が陽性なら、PgRが陽性でも陰性でも、フェマーラはタモキシフェンよりも患者にベネフィットがあることが証明されたとした。
BIGI−98試験の別の解析でも、閉経後女性の術後アジュバント療法では高齢者でもフェマーラがタモキシフェンよりも多くのベネフィットがあることが実証されたという。
米ファイザー社は、閉経後ホルモン感受性乳がんの比較試験・TEAM試験の子宮内膜に関するサブスタディーをピックアップした。アロマターゼ阻害薬の主力製品「アロマシン」(一般名エキセメスタン)を投与された閉経後ホルモン感受性乳がん患者が、子宮内膜肥厚を引き起こす確率はタモキシフェンの5分の1にすぎないことが明らかになったと発表した。
子宮内膜肥厚は、子宮内膜がんに進行したり、腟出血の原因になったりする可能性がある。
この子宮内膜に関するデータは、アロマシンの大規模試験ISE試験で得られたデータを裏付けたという。
英グラクソ・スミスクラインは、HER2(ErbB2)陽性の乳がん患者に対する「タイカーブ」(一般名ラパチニブ)とパクリタキセル(商品名タキソール)との併用療法は、パクリタキセル単独療法に比べ、無憎悪生存(病勢が進行せず生存する)期間を有意に延ばしたと発表した。
肺がん
肺がんでは、スイス・ロシュ社の「アバスチン」(一般名ベバシズマブ)、シスプラチン、ゲムシタビンの併用化学療法が、単独の化学療法に比べると、進行性非小細胞肺がん患者の無憎悪生存期間を有意に延長。また腫瘍の縮小率や縮小効果期間を有意に増加または延長した、としている。
グラクソ・スミスクライン社は、進行性(または転移性)腎細胞がん、卵巣がん、軟部肉腫の治療薬として開発中の抗がん剤パゾパニブの第U相臨床試験の結果も発表した。
このうち腎細胞がんでは、試験参加患者225人全員に対する投与開始後12週時点の奏功率は27%、病態コントロール率は73%だった、とした。
パゾパニブは血管新生を阻害する経口剤。血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)と血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)、c−kitという血管新生の過程で必要なタンパク質を標的にする、新しいタイプの分子標的治療薬。
腎細胞がんは、一般的に通常の化学療法に耐性を示す。進行性の腎細胞がん患者には組み換えヒトインターロイキン2(IL2)や組み換えヒトインターフェロンα2bを、単独または併用する免疫療法が普及している。
高用量のIL2では約7%の患者で長期間の寛解が望めるものの、毒性のため使用は制限される。
低用量のサイトカイン療法では、高用量のIL2療法と同程度の効果は期待できないという。
卵巣がん
卵巣がんは第?相臨床試験。白金製剤の標準療法の効果が認められなかった卵巣、卵管、腹膜のがん患者に対するパゾパニブの効果が検証されている。
試験では卵巣がんを再発した患者22人中9人(41%)で、生物学的活性が確認されたという。
卵巣がんは、一般的に外科手術の後、複数の抗がん剤を投与する化学療法を試みる。大半の患者は一次治療に最初は反応するが、再発すると深刻になる。
標準治療法のない軟部肉腫では、前の治療で効果がなかった進行性の患者に対し第?相の臨床試験で、パゾパニブの効果を調べた。その結果、試験に参加した患者80人中27人(34%)が、投与開始後12週間の無憎悪生存期間を記録したとしている。
パゾパニブの効果を調べる臨床試験には既に患者1、000人以上が参加し、治療を受けている。このうち1%で心筋梗塞(こうそく)や狭心症、脳血管障害、腸穿孔、一過性脳虚血発作などが報告されている。また肝トランスアミナーゼの上昇も認められている。
前立腺がん
一方、英アストラゼネカ社は、非ステロイド性の抗アンドロゲン剤の前立腺がん治療薬「カソデックス錠」(一般名ビカルタミド)の日本での第?相臨床試験の結果が、ASCOの2006年治療ガイドラインで引用された、と発表した。泌尿器科分野で日本の臨床試験データが海外のガイドラインに引用されたのは初めてという。
その第V相臨床試験は、日本の進行性前立腺がん患者のファーストライン(第一選択肢)治療で、ビカルタミドとアンドロゲン抑制併用療法とアンドロゲン抑制単独療法を比較。腫瘍縮小効果などの試験結果を踏まえ、ASCOの治療ガイドラインを「併用療法を前立腺がん治療の選択肢として考慮すべき」と改訂した。
前立腺がんの多くは、精巣や副腎から分泌される男性ホルモンの影響を受けて増殖する。
この男性ホルモンの分泌や働きを抑えることにより、前立腺がん細胞の増殖を抑制するのをホルモン療法(内分泌療法)と呼ぶ。
アンドロゲン抑制併用療法は、精巣と副腎から分泌される男性ホルモンの影響を最大限抑えることで、より治療効果をたかめるため、精巣摘出に抗男性ホルモン剤(抗アンドロゲン剤)の投与を併用する治療方法。(くまにち)
